お題:団地妻の魔法使い 必須要素:哲学的な思想

ねこの名前はキュリーちゃん

 俺の奥さんは団地妻で、さらには魔法使いだ。そして猫好きだ。かくいう俺も猫が大好きだ。
 しかし、俺たちが住むのは家賃だけで選んだ壁がペラペラのオンボロ集合住宅……。もちろん、ペットは不可である。
 嘆く奥さんだったが、ある日解決策を見出したらしく、俺が仕事から帰ると「見て見て」とみかんが入っていた空の段ボール箱を伏せ、ワンツースリーと唱えつつ得意の魔法のステッキで箱を叩いた。
 「何だいこれ」
 「シュレディンガーの猫よ。生と死が混在しているからペットとして禁止はされないはずよ」
 「理屈がよくわからん」
 中からは、子猫のにゃーとなく声。「あら、箱を防音仕様にするのを忘れてたわ。これじゃ生きてるかわかるわね」
 俺は伏せられたダンボールをそっと持ち上げて猫をそっと取り出した。妻の好きな、サバ白の子猫がそこにいた。みゃー!となく子猫。きゅん。「かわいいわ!私たちの皮膚片から合成したから実質私たちの子よ」にこにこと恐ろしいことを言う奥さんなのだった。「今度からそういうものを採取する際は事前に許可を取るようにしてくれ」
 子猫と一緒に、たくさんのきゅうりも入っていた。子猫を膝に乗せ、優しくなでなでしながら、妻は言う。「猫は苦手と聞いたのよ」「だとしても死ぬことはないと思うよ」「本当に放射能なんて入れたら可哀想よ」「……」
 その後夕食にはきゅうりのスティックサラダと、子猫のためのまぐろの切り身が並び、俺たちはかねてよりの貯金で一軒家を借りる算段をしながら食事をすることにしたのだった。

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